韓国で注目されているスタートアップを数社取材してきた中から見えてきた、彼らの共通点や韓国のビジネス環境など、普段国内では情報が少ない韓国の最新情報をブランディングデザイナーならではの視点から語ってもらいました。
POINT EDGEの note で連載している韓国のスタートアップ企業の代表とのインタビューを複数してきた結果、2つの共通点がありました。まず一つ目は、自分が直面しているビジネスの問題を正確に定義していること、 二つ目は、自分がしようとすることが明確であることです。
今回は、その中の事例として執務室(JIBMUSIL)という韓国スタートアップの紹介します。まず、その前に韓国スタートアップ市場の特徴からお話ししていきます。
韓国では、他国に比べて、国内の市場規模が小さく、海外進出の必要性が高いため、インタビューをしたスタートアップの方々もみなさん海外進出、特に日本市場と東南アジア市場への期待をしていました。また、韓国は他国に比べて創業率が高い傾向があります。これは、起業家精神に対する経済産業省の国別調査で、失敗に対する恐れ(失敗脅威指数)が韓国は最も低い国との調査結果が出ていることからも、起業に対するハードルは低いと感じている方が多いです。ここは大きな韓国ならではの特徴ではないでしょうか。
執務室は、韓国でリモートワークをしていたときに利用していたシェアオフィスです。執務室は2020年に創業しましたが、それまではシェアオフィスといえばWeWorkが絶対強者でした。そんな中でなぜ、私が執務室を選んだのか、どこが特別だったのかの疑問が、note記事でのインタビューにつながりました。
少し話はそれますが、ブランドやブランディングについて勉強するとき、この方法が一番簡単で良い方法だと思っています。自分が使うブランドに関心を持って、自分がなぜこのブランドを選んだのか、なぜこのブランドが市場で生き残ったのか、その理由を追うことがブランディングを勉強する最も良い方法だと思います。
シェアオフィスの話に戻りますが、みなさんご存知のとおり、WeWorkは経営悪化やIPOの失敗によって企業価値が大幅に下がりました。個人的には、韓国でWeWorkが危機を迎えた状況は、そうしたニューヨーク本社の状況だけではなく韓国市場での現地化に気を使っていなかったからだと思っています。
例えば、韓国の場合、西洋諸国と違って夜勤が多く労働時間が長い国です。それに対して平日9時から6時のみ冷房や暖房を提供し、それ以外の時間には冷暖房を提供していなかったことで、当時の入居会社からは苦情が多く入っていたそうです。その後、昨年になりようやく改善されましたが、こうした現地の働き方の傾向を把握しておくのは大事なことです。
また、シェアオフィスというビジネスモデルが、コロナ前と以降では変化していったこともポイントのひとつです。初期のシェアオフィスは、企業に事務空間を賃貸し、事務空間に必要な付随的なサービス、プリンタやインターネット設置、宅配管理などを代行する形でした。 しかし、コロナ以後は、コロナの拡散を防ぐためにオフィスに来ないようにして職員を分散させる必要がありました。チームのための業務空間ではなく、リモートワークをする一人一人のための業務空間がより必要になりました。
そのため、オフィスの場所がほぼ住居地近くにあります。これは、執務室の特徴のひとつでもあります。遠隔勤務を考慮して住居地から歩いて15分という立地条件をこだわって、1人業務に適したオフィスを作っていました。 執務室は、コロナに対応できるビジネスモデルを持っていて、上記の立地条件のように、1人業務に最適化された衛星サテライトオフィスというコンセプトが明確でした。
次に、執務室は単純に空間を賃貸するのではなく、空間の運営、そして企業がしなければならない機能の一部をサブスクリプション形態でサービスすることに集中していました。
企業と提携を結び、企業の社員が自分の近所にある執務室で働くようにしながら、本来なら企業がすべきだったこと、例えば通勤を管理したり業務現況を把握したり、社員間コミュニケーションプログラムなどをサービスしています。
クラウドサービスというのが誕生してから、企業はすべてを自分で行うよりも、必要なサービスを外部プロバイダーに任せ始めましたが、このようなニーズを執務室はうまく活用しています。
その他、執務室自体に多様なタッチポイントを作り、ユーザーがその空間のファンになれるようにしていました。彼らは、業務効率を高めるため、一つの空間でいろんな働き方ができるよう空間の多様性をユーザーに与えています。様々な形のワークモジュールがあり、バー空間や洞窟のような空間などがありました。
執務室は24時間オープンしていて、夜8時にはウィスキータイムを提供しています。通常9時から6時まで働く人が多いですが、6時以降も来られるように設計したそうです。 仕事をするためではなく、たまに夕方にウイスキーを飲みながら本を読めるスペースも兼ねるようになっています。これは、マーケティングの側面もありますが、広告費に高い費用をかけるよりも、人々に満足できるものを提供し、彼らが直接SNSに写真をアップロードする広報効果を狙っているそうです。 これらが全てユーザーとのタッチポイントになりますね。
ブランディングとは何でしょうか。
突然ブランディングデザイナーが投入されてロゴを作ってトーン&マナーを決めて社員のトーンオブボイスを勝手に決めていくということではないと思います。
スタートアップを含めたすべての企業が、創業してから歩んできたすべての足跡がブランディングだと思います。会社の考え方や言葉、行動など、会社のアイデンティティを大切にして成長させるのがブランディングだと思います。
成功したスタートアップの代表たちにインタビューしながら共通したことに気づきました。それは「自分がしたいことが何なのかはっきり理解して、それを守っていくこと」です。
スタートアップは、自分を証明するために最小条件のサービスを作って、測定して学習する過程を数え切れないほど繰り返します。そうしなが らブランドアイデンティティを作っていくと思います。 自分が属している市場に合わせてビジネスモデルを開発することも重要であり、その都度状況に合わせて柔軟にピボットすることも重要ですが、何をしようとしているのか、自分の事業の本質が何かを掴んでいることも大切だと思います。 執務室の代表の方々は、やりたいことが明確に見えていました。「単純な業務空間ではなく、新しい業務スタイルを作る」ということです。 それを失わずにそこからさまざまなアイデアを生み出しているのが印象的でした。
2022年9月27日にBUSINESS EDGE #06 を開催します。テーマは「X(変化・変革)から考えるDX ー 小売・店舗DX編」
DXの本質は企業や事業が変化・変革することにあります。POINT EDGEのDX支援はこのX(変化・変革)を探究することを大事にしています。今回はビジネスデザイナー・桑原が日本と中国で実際に関わったプロジェクトを通して得た小売・店舗DXにおけるポイントをお伝えします。
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