これまで弊社公式note内で「リアルとデジタルの体験をデザインする」というテーマで桑原が店舗を中心とした商空間のDXについて説明してきましたが、今回の参加者は商空間をデザインするインテリアデザイナーや建築家が中心ということで、前半の講演では中国の店舗DXを例に“デザイン“としての商空間の変化を説明しました。
後半はBAMBOO MEDIA代表の笈川誠氏とのトークセッションを行い、これからのインテリアデザインの拡張やインテリアデザイナーの職能など幅広い議論となりました。
本レポートでは前半の講演の一部を抜粋し、内容を振り返ります。
日本においても中国よりも遅れはとっているものの、店舗DXの取り組みは活発に行われるようになってきました。しかし、日本の取り組みはどちらかといえば、いわゆる守りのDX(=効率化・省力化等)に偏っている傾向があります。分かりやすい例でいえば、無人コンビニなどがあります。
こうした事例はDX(digital transformation)の中のD(digital)としてどういうツールを導入するかというところから起点になりやすいため、インテリアデザイナーがそこに提案を持ちかけることが難しい状況にあります。一方で中国においては、D(digital)の力は必要となるものの、どういう場所をつくりたいかという目的から入っているケースが増えてきていて、X(transformation)を起点に入ってるものが多いように感じます。
講演の中では後者の事例として、中国の4つの店舗(うち2つは桑原の設計事例)を紹介しました。この4つの店舗DXをDとXに分解すると以下のようになります。
D:キャッシュレス・QRコード決済
X:店舗オペレーションの省力化を実現し、視覚的・触覚的な体験を生み出す場
D:EC
X:販売機能・商品在庫を店舗から取り除き、ブランドの世界観に浸れる場を生み出す場
D:EC・QRコード
X:商品を売ることではなく体験を軸にブランドを体感する場
D:無人コンビニ・多機能自動販売機
X:無人コンビニの良さと有人コンビニの良さを掛け合わせた効率化されたコンビニ
こう見ると呆気にとられるほどに、DXのDに当たる部分はシンプルであくまでもX・目的を実現する手段として見えてくるのではないでしょうか。DXと考えると最新のテクノロジーを導入しなければならないと考え、インテリアデザイナーには無関係なものと捉えられがちですが、このような事例を見るとDXにも提案できる領域があるようにみえてくるでしょう。
デジタルによるタッチポイントが生まれる前は店舗という場所は唯一の販売場所であり、その上顧客とも接することのできる貴重な場所でした。また、タッチポイントが少ないうちは経営者の目の届く範囲にあるためにブランディングという強い括りがなくても、ブランドイメージの統一が可能でした。
デジタルによる表現が多用となり、タッチポイントが増えていくに従いブランディングという概念が必要になりました。実際ブランディングという考えそのものはあったものの、日本で浸透してきたのは佐藤可士和さんなどが活躍し始める2000年代後半になってからです。
さらにそこからSNSが普及してくると、タッチポイントは指数関数的に増えていき、ブランディングに加えて体験を束ねるUXの存在が大きくなっていきました。
こうしたインテリアデザインの歴史を現代に立ち、過去を振り返ってみると徐々に実空間としての店舗というものの存在感が薄れていると感じるところもあるでしょう。もちろん逆にリアルの空間から得られる希少性が増してくるという見方もできますが、ブランディングとUXの中にある一部としての店舗と言うのは認識すべきことでしょう。
こうした背景はこれからのインテリアデザイナー像に少なからず影響を与えるべきだと考えています。2010年代以降ブランディングへの意識はインテリアデザイナーとして当たり前に持っていたかと思いますが、これからは同時にUXへの理解が必要となってきます。
現在のところUXはデジタルに比重が置かれていますが、本来リアルとデジタルを束ねる概念です。ユーザー目線で考えたリアルとデジタルの繋がりがOMOであり、店舗DXの理想的な姿といえますが、それを実現するにはデジタルからリアル見るだけでなくリアルからもデジタルを見るアプローチが必要となるわけです。それにはリアルとデジタルをフラットに考えて実空間への最適解を導き出そうという発想・視座を持つべきだと考えています。
ただし軸足はあくまでもリアルの部分にあることは変えるべきではないと思うので、デジタルの部分を自分でつくりだすという意味合いではありません。専門家と共に実現へと導くファシリテーション能力が必要で、そのためにデジタルに対してのリテラシーを持たなければなりません。
どのデザインの分野においても同様ですが、与条件の整理をした上でデザインを始めるのはインテリアデザインも一緒です。そのため、与条件の変化はインテリアデザインに変化をもたらす可能性が大いにあります。
与条件の中には個別の案件によって異なるものもありますが、無自覚に受け入れているような常識とも言える与条件があり、後者の与条件にもこれまで説明してきた時代的な背景が重なり、変化が起きつつあります。 ここでは具体的な変化として以下の5項目を挙げています。
この5項目についての詳しい説明は以前のnoteでのコラムに掲載されたので細かな割愛させていただきますが、ここではこの5項目が与える商空間のデザインへの影響というところを中心に見ていきたいと思います。
店舗にある商品がECにも必ずあるという時代は近づいています。そうした場合には品揃えが魅力ではなくなります。これまでは所狭しと商品が置かれることが経済性の面から正しいとされてきましたが、その前提がなくなれば商空間における什器のレイアウトや通路の取り方など大きく変えることできます。
コロナにより多くの企業が販売の場をECに移し、店舗と比較したときの売り上げ比率を大きく伸ばしました。今後さらにECは伸びていき、ECが店舗を逆転する未来もあるかもしれません。そうなった場合に必ずしも店舗に買うこと・売ることが必要というわけではなくなってきます。買わせることよりも、その場で過ごすことによってお金を落としてもらったり、あるいはブランドイメージに浸ってもらったりすることが目的になり、経済性・効率性ではなく快適性・体験性が重視される傾向になります。
店舗が大きければ大きいほど、商品やサービスの供給力大きく、市場への影響力となることは、大型商業施設と小型店舗の二項対立を例によく言われてきました。しかし、テクノロジーの活用によって供給力が店舗の大きさに比例しない事例も出てきています。店舗がネットスーパーの配送場所を兼ねるようにし、店舗の大きさ以上の供給力を実現している例も中国などでは出てきています。それは単に店舗の機能を増やしているだけでなく、テクノロジーによって配送の効率化・在庫の適正化を行うことで供給力を高めています。こうした例は物理空間としての大きさだけでなく、店舗を物理空間+情報空間として捉えているといえるでしょう。
これまでも急速な成長をしてきましたが、2019年にネットの広告費が各メディアを抜きました。情報収集する際にネットが中心となっているのは多くの人が納得するところでしょう。つまり店舗の集客にもネットの影響力が強まっているということです。これまで人通りの多い場所に出店することに集客の優位性がありました。それは今でも残りますが、その優位性は少なくなっていると言えるでしょう。中国ではネットでの集客やSNSでの影響力により、人通りが決して多くないところに出店している店舗が賑わっているというのは珍しいことではありません。外に対しての訴求力というのがデザインの大事な要素でしたが、それは必ずしも必要なこととは言えなくなるでしょう。
バックヤードやレジスペースなど店舗には一定のオペレーションスペースが設定されます。それは慣習的にサイズなどが決められていて、それは店舗デザインをする際のルールとして規定されるものでした。当然これからもある範囲では残り続けるルールではありますが、テクノロジーによりその規定が低減される部分も出てくるでしょう。現金の扱いがなくなればセキュリティの考えが変わり、在庫が適正化されればバックヤードは縮小される。あるいは無人化・省力化によりオペレーションスペースが極端に小さくなる場合もあるでしょう。
ここまでの説明からも商空間の捉え方が拡張しつつあることがわかるかと思います。これまでのように決められた与条件の中で物理空間をデザインする場合であれば、建築や家具など空間のスケールを横断したチームで対応が可能でしょう。
しかし、拡張し情報空間までも捉えるとすれば、新たな専門性が必要となります。インテリアデザインを媒介するものとして、それにインプットするビジネスとテクノロジーを加えたチームが物理空間+情報空間を商空間と捉えることが可能となるでしょう。
これまでにもビジネスとテクノロジーの要素がなかったわけではないですが、
“与条件をつくる”ビジネス
“ビジネスを具現化する”インテリアデザイン
“具現化を下支えする”テクノロジー
というような上下の関係がありました。
冒頭で説明したDよりもXを重視するDXを実現するためには、テクノロジーを重視するのでもなく、デザインがビジネスの従属的な要素の一つになるわけではありません。ビジネス・インテリアデザイン・テクノロジーの三方を横に並べて、連動していくことが必要です。 弊社POINT EDGEにはこの三方それぞれに専門性があり、これからの新たな商空間を生み出すための体制が築けると考えています。
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