現在ほど、新規事業への注目が高まっている時代はないと思います。事実、ネットや書籍には新規事業やイノベーションに関する情報があふれています。
スタートアップ企業やベンチャー企業はもちろんのこと、「イノベーション」から縁遠かった大企業でも、変化するビジネス環境へ適用するための新規事業にトライし、「イノベーションラボ」を設置するなど顕著になってきました。まさに業界内で長期的な優位性を確保する、もしくは生き残りをかけて日々、取り組んでいる状況です。
新規事業開発の手法自体も、従来のビジネス戦略やマーケティング戦略のアプローチに加え、デザイン思考を代表とした「ヒト中心」のクリエイティブアプローチが採用され、ユーザー理解を深めるためのリサーチ、ペルソナ・ジャーニマップ開発、ワークショップの実施などは、新規事業開発には欠かせない要素になりつつあります。
ただ、様々な手法やフレームワークの有用性などが語られる中で、見落とされがちな項目があります。
“プロジェクトメンバーのベクトルが同じ「チームづくり」”
プロジェクト成功の9割がこの「チームづくり」で決まると言い切っても良いと考えます。
組織づくりではなくてあえて「チームづくり」という言葉を選択したこと。普段何気なく使っている「組織」や「チーム」という言葉…同義に思える言葉の違いと、正しい理解がその後のプロジェクトの進行に大きな影響を与えるようになります。
そのために「チーム」とは何なのか、よく同じ意味として使われる「組織」との違いは何なのか、違いを理解する必要があります。
ではこの2つの言葉は何がどう違うのでしょうか? その定義を調べると…
「組織」 特定の目的を達成するために、専門的な役割を持った部門で構成されている集合体のこと。 一定の共通目標を達成するために、成員間の役割や機能が分化・統合されている集団。
「チーム」 利益、目的を達成するために共同作業を行なうための数人から成る集団 お互いの弱みを補完し、強みを高め合うことによって相乗的な力や効果を生み出す共同体 とあります。
「目的を達成するために集まる」と共通点を見つけられますが、組織という言葉が<専門性によって構成されている集団>・・・感覚的に少し機能的・機械的な印象を受ける一方で、チームという言葉からは<コミュニケーションや協力関係>が垣間見えます。
ここで重要なのは、定義の中にある「集合体」と「共同体」という言葉の違い。組織で表されている集合体は「個々が集合し出来上がる」と定義される一方、「共同体」は「自然発生的に共同体意識,共属感情をもって生活している人々の生活体」とコミュニティとほぼ同義の意味で定義されています。
つまり、
ではなぜ新規事業は組織づくりではなく「チームづくり」なのでしょうか? それは新規事業が持つ特徴や取り組む問題の性質が、チーム的なアプローチが適しているからと言えます。
組織とチーム、それぞれが対応する問題の性質とは何?一言で言ってしまうと、
です。解決する問題が存在するのは「既にテーマが決まっている状態」。プロセスや指標(KGI,KPI)などが設定されており、取り組むべき課題が明確であると状態です。課題に対して効率的に取り組むために、問題を専門性や機能によって細分化し、いかに早く効果的に課題に取り組むかだけです。これは一般的に多くの既存事業で見られる状態で、組織的なアプローチで課題解決をしていくことに適しています。
一方で新規事業は「そもそも解決すべき問題を考えて決める」ところからスタートする状態。テーマや仮説を設定しプロセスや指標をゼロから構築する、その仮説が間違っている可能性も大いに孕んでいるため、初めのプロセスに戻ることもしばしば発生します。効率性を追求することは難しく、たとえプロセスがふりだしに戻ってもモチベーションを保ちながら協力し続ける必要があります。この場合、「チーム」の特徴である共通意識を持ち相互協力をしながら進めていくアプローチが適しています。
しかし、多くの新規事業では「組織」と「チーム」の違い、またそれぞれの取り組む問題の性質の違いが深く理解されないまま進行しているケースがほとんど。プロジェクトメンバー間でもそうですが、マネジメント層も含めて正しい認識を持てない状態でプロジェクトが進行され、結果社内の適切な支援を得られないまま、望まない結果にたどり着いてしまうことは少なくないのでしょうか。
事実、新規事業担当者を対象とした調査(https://eiicon.net/articles/542)でも、アイデアの創出よりも社内の理解や巻き込みに苦戦した経験が上位を占めており、いかに「チームづくり」が重要な要素であるかを物語っています。
「チームづくり」の重要性は分かった・・・とはいえ、特に初めて新規事業を担当する方などは、どこから手をつけたら良いのかわからないが本音だと思います。
そのような状況で、道しるべとなればと思い、チームづくりの5原則としてまとめました。
チームづくりだけでもタスクは多岐に渡るため、全てをカバーしているわけではありませんが、外せないポイントとしてご紹介をしています。
プロジェクトのメンバーを集める状況において、思い浮かぶ顔として既存事業で一緒に仕事をして気の合う仲間に頼ることは多いのではないでしょうか。気の合う仲間をメンバーとして迎え入れるのは、一見コミュニケーションのしやすさ、仕事の進め方としても効率的とも感じられます。しかし、必ずしもそれが有効に働くとは限らないのが新規事業。それはグループシンキングに代表されるような思考の同一化による弊害です。
解くべき問題が定まっていない新規事業プロジェクトでは、問題設定とその後の課題解決のために多様な視点が必要となります。そのためチームの思考に多様性を持たせ、様々な視点から問題を提起するアプローチをとった方が有効となります。
とはいえ、異質な考えをもったメンバーとのコラボレーションは言うは易し、行うは難しです。プロジェクトマネジメントで言及されるタックマンのチームビルディングモデル(下記)にもあるよう、ただでさえ難しいプロジェクト推進に、さらに大きな混乱期が訪れることもしばしば。ただしこのフェーズを乗り越えずにプロジェクトを成功には導けないことも事実です。
タックマン・モデル – PMP受験・PMBOK 第4版ガイド より引用
ここでポイントとなるのがチームに多様性を持たせながら、訪れる混乱をコントロールするファシリテーション能力を持ったメッバー。チームにファシリテーターをアサインすることは成功への第一歩といえます。
「既存事業と新規事業の抱える問題は性質が違う」ことは前述の通り。新たに新規事業用にチームを立ち上げても、運営ルールや評価をどうするのかなどが充分に議論がされぬまま、既存のルールが適用されるケースがよく見受けられます。
またメンバーのプロジェクトの参画も、既存事業と新規事業を兼任するいわゆる「兼任モデル」状態がしばしばあります。これらの多くは、既存事業のエースクラスを新規事業にアサインしつつも、様々な事情やしがらみもあって専任にできないケースです。
そこで、最近では「出島モデル」の形態がとられるようになりました。具体的には、新規事業専任部隊(別会社)、イノベーションラボなどがこれに当たリます。既存のルールで新規事業を運営するのは、進行上もメンバーのモチベーション管理上も機能しない、片手間で進められないと多くの企業で理解され始めた結果です。
「出島モデル」は、チーム独自で自由なルールが採用できる観点では非常に有効です。ただ忘れられがちなのが、既存リソースへのアクセスです。新規事業の成功要因の多くが、自社の技術やノウハウを生かせたという調査結果もあります。しかし、巷で見られる出島モデルでは、外部とのコラボレーションばかりに目がいきがちで内部をフォローできてないケースもあります。
そのため、チームに自由を与えつつも、既存リソースへ必要なタイミングで必要なだけアクセスできるよう、事前に調整しておくバランス感覚が重要となります。
「新規事業の成功確率は1割以下、事業計画は役に立たない」「まずは市場にプロトタイプの投入を」など、スタートアップ思考やデザイン思考を導入せよ!という動きは日に日に高まっています。
しかし多くの企業では、いくら新規事業といえど、事業計画などを作成し、事業がうまくいく理由、投資に対する効果を説明しなければ、次のステップに進めないものです。
「新規事業の成功率は限りなく低い」という一般的な事実と「事業が上手くいく説明」の間で、ジレンマに悩まされる担当者も少なくありません。また、意思決定するマネジメント層も明確に判断できないことも多くあります。
では、どのような結果になるか誰も分からない状況でステークホルダーに理解を得ながら事業をスタートさせるにはどうすればよいのでしょうか? 鍵を握るのが「共感をもとにした共犯関係」というフレーズです。
従来のアプローチ、いわゆるハードアプローチと言われる数字やロジックなど論理性をもとにした説得型の手法では、新規事業が成功確率が低いという性質を持つが故に、論理破綻を起こしかねません。一方で多くの人が成功すると思っていないところからイノベーションが生まれるということは歴史が証明してきていることも事実。事業計画を指摘する側のロジックも必ずしも正しいとは言い切れません。そう意味では、どちらのロジックも「観点」と言えるのかもしれません。
そのような折り合わない観点をまとめるには、その事業に対する「共感」が必要となります。事業計画として筋が通っている、その上で納得感がある…そのような空気をつくり、ステークホルダーを巻き込むコミュニケーションを行いながら、ある意味では「共犯関係」を作っていく。
共感をもとにした共犯関係を作っていく、これが3つ目の原則です。
事業立案フェーズ、事業をローンチしてない準備段階では、ディスカッションやテキストベースで合意形成を図っていくのが一般的です。このやり方だと、アイデアの粒度が高まらない、メンバー同士で言葉の捉え方がマチマチ・・・であることも多いです。
そこで、プロトタイプの出番です。対象が、デジタルプロダクト(Webサービスやアプリ)であれば、プロトタイピングツールなどを使って高速かつかなり詳細なレベルまでアイデアの擦り合わせが可能です。そして、既に浸透してきているものです。一方、対象がデジタルプロダクト以外になった場合は、共通認識を持つ難易度がグッと上がります。
そんな場合、リーンキャンバス、ビジネスモデルキャンバスなど事業そのものを可視化するツールを使用したり、サービスアドバタイズメントやFake it before you make it(サービスを作るまであたかも実際に存在するかのように振る舞う)などの手法も開発され、非デジタルサービスでもプロトタイピングができるようになってきました。
ここまで手法やツールの話をしてきましたが、ここで伝えたいポイントは「アイデアを可視化」することです。いかに新規事業が失敗が許容されやすい環境とはいえ、出来るだけ不要な失敗は避けたいものです。
百聞は一見にしかず。アイデアを可視化し、共有するチームカルチャーを作りましょう。
業務を進めるための「コンセンサス、共通理解、総意」、議論の目的が合意形成であること、ビジネスでは当然のことです。また、できるだけ幅広い層に受け入れられるよう商品・サービスを開発することも当然です。
しかし、新規事業においてはこの「合意形成のプロジェクト推進」や「広く受け入れられそうな商品・サービス開発」は、差別化要因の無い平均的なアウトプットとなり、逆にウイークポイントになりかねません。
新規事業の世界では、「一担当者の強い想いがヒット商品を生む」という話や、「顔が見える特定の顧客に向けたサービスが後に結果として万人に支持される」などの話を聞きます。そんため、<情熱>や<想い>は新規事業の重要な要素の一つと言えるのではないでしょうか。
しかし多くの場合、情熱や想いは、価値にまだ気づいていない人からは受け入れてもらえないもの。新規事業担当者にとっては厚い壁となりえます。では、価値を理解してもらい、ステークホルダーを巻き込んでいくにはどうすれば良いのでしょうか。
それを説明するにはこちらのビデオを見ていただくのが説明するよりも早いでしょう。
ポイントは、2番目のフォロワー=最初の協力者がいるか?です。
リーダーシップと聞くと能力や姿勢などが過大評価されがちなもの。フォローワーの存在の重要さに目を向けることに気付かされます。新規事業担当者として情熱を持つことはもちろん重要。さらに<最初の協力者>なしには広がりません。まさに、成功のための第一歩をともに踏み出すヒトの存在です。
事業を成功させるための情熱を。情熱を伝播させるための最初の協力者探しを」。これが5つ目の原則となります。
以上のように原則としてまとめてみましたが、唯一の正解は無いことも事実。日々さまざまな対応に追われ、目まぐるしく変わる現場にいる新規事業担当者にとっては、俯瞰的な視野を持つことは大変です。また同じ目線で悩みを共有できる人も少ないでしょう。
新規事業のチームづくりは難しい。ただ気づきを与えてくれる伴走者(メンバー)がいることで状況や自らの立ち位置を常に把握させてくれます。おのずとチームは正しい方向を選択し、結果、新規事業の成功確率の上げることはできます。少なくとも、組織由来のチームよりは格段に精度があがるでしょう。
とにかく、伴奏者を見つけること…チームづくりで新規事業を楽しみましょう。
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